人の視点の動きから、車酔いしやすいか否かをAIが自動判定する

人の視点の動きから、車酔いしやすいか否かをAIが自動判定する

Abstract

私たちの生活に乗り物での移動は不可欠です。しかし、乗り物酔いに悩まされる人はたくさんいます。乗り物酔いの原因は様々ですが、その一つに、脳に送られる動きに関する情報のずれ、例えば平衡感覚と視覚情報の間にずれが生じることが挙げられます。普段は酔わないけれど、波が高い日の大きく揺れる船や舗装されていないガタガタ道を走る車に乗ると酔ってしまうのは、その情報のずれが大きくなるからです。目を閉じる、遠くの景色を見る、本を読んだりスマホを見たりしない、といった乗り物酔いの対策は、矛盾する視覚情報を少なくするために取られる行動です。では、AIを利用して、乗り物に乗っている時の私たちの視線の動き(視線動向)を分類・分析することができれば、乗り物酔いとの関係が見えてくるかもしれません。

私たちは、車酔いしやすい人としにくい人の乗車中の視線動向をAIが学習することにより、視線動向のデータだけで「酔う」か「酔わない」かを判定できるか、また、酔いにくい、または酔いやすい視線動向を特定することができるかを検討しました。まず、健康な若い男女37人(車酔いしやすい人17人、しにくい人20人)に視線追跡装置を装着してもらい、直線道路を走行する乗用車のダッシュボードに設置されたカメラで撮影した90秒間の映像を見てもらい、それぞれの視線動向データを収集しました。次に、車酔いしやすい人としにくい人のデータそれぞれをいろいろな条件でAIに学習させ、視線動向データから車酔いを判定できるかどうかを調べました。AIによる判定の正答率は約80%で、偶然による正答率(約50%)を上回っていました。また、視線動向のばらつきが少ないほど酔いにくいということも示されました。

今回の研究では、直線道路の走行映像を見る若い男女の視線動向データを用いましたが、異なる道路の映像や異なる年齢層の視線動向データを用いても判定はできると考えられます。また、いろいろなデータをAIが学習することにより、「車酔いしにくい視線動向」がより明らかになることも期待されます。私たちは最終的には、視線動向に基づいて酔いやすさをAIが判定し、視線動向をどのように変えれば酔いにくくなるかを算出して、それを人が理解しやすいような形で伝えるシステムの構築を目指しています。

Publication

  • Shota Okuyama, Jun Toyotani, Yuto Omae, Relationship between the accuracy of models for judging car sickness based on line-of-sight features and road attributes, International Journal of Innovative Computing, Information and Control, vol.18, no.2, pp.433-445, 2022.04. doi: 10.24507/ijicic.18.02.433 [Link]
  • 奥山祥太, 豊谷純, 浦田奈愛, 大前佑斗, 車酔い自動判定モデルとランダムフォレストによる視線動向の階層化分類, 日本情報ディレクトリ学会誌, vol.19, pp.2-9, 2021.04. [Link]

Note

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文責: 大前佑斗

日本大学生産工学部マネジメント工学科 専任講師、人工知能リサーチセンター 研究員。ゼミ配属では、プログラミングや人工知能を、時間をかけ丁寧に学習したい方を募集しています。文系・理系、どちらでもokです。