Abstract
2019年12月に発生したCOVID-19は社会に大きな影響を及ぼしました。緊急事態宣言が出されたり、まん延防止等重点措置がとられたりと、私たちの生活は大きく制約されたものとなりました。楽しみにしていた修学旅行、運動会、入学式、卒業式などの学校行事が中止されたこと、または規模が縮小されたことを思い出す人も多いでしょう。感染症の流行を防止する有効な手段としてまず考えられるのが、ワクチン接種です。実際に、COVID-19ワクチンを接種した人が日本の全人口の70%弱となってからは、行動制限などが緩和されるようになりました。
日本では、2021年2月から医療従事者を対象にCOVID-19ワクチンの接種が開始されましたが、私たちはこのワクチン接種がまだ開始されていないときに、コンピュータを使って、感染拡大初期にワクチンが存在した場合としない場合の日本国内における感染伝播シミュレーションを行いました。シミュレーションには、厚生労働省から発表されたCOVID-19新規感染者数などのデータと、学術論文や資料の中で報告されたCOVID-19の感染力、感染期間、致死率、潜在感染者数、ワクチンの有効性、ワクチンによって得られる免疫の持続期間などのデータを用い、COVID-19に免疫を持たない人々(感受性者)の1日あたりのワクチン接種率の違いによる新規感染者数の推移を推定しました。このシミュレーションによると、1日あたり1%の感受性者にワクチン接種が行われると感染拡大はほとんど発生せず、感染の早期収束が期待できることが示されました。1日あたり0.1%の感受性者にワクチン接種が行われると、早期の感染者削減効果は見込めないものの、ワクチン接種者数が増えるにつれて感染者数が大きく削減するであろうことが示されました。一方、1日あたり0.01%の感受性者にワクチン接種が行われると、感染者数をほとんど削減できないことが示されました。
発生当初のCOVID-19は未知の感染症であり、新しい仕組みのmRNAワクチンについてもデータが少なかったため、私たちのシミュレーションには多くの仮定が含まれています。その後明らかになった臨床的・科学的エビデンスを踏まえれば、感染拡大の抑制とワクチン接種率の関係についてより精度の高いシミュレーションが期待できます。
Publication
- 大前佑斗, 柿本陽平, 豊谷純, 原一之, 權寧博, 高橋弘毅, SIRVDモデルによるCOVID-19ワクチン接種を考慮した日本国内の感染伝播シミュレーション, 日本経営工学会論文誌(研究速報), vol.73, no.1, pp.27-30, 2022.
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