人工知能を活用した心象状態の可視化と進路指導への応用

人工知能を活用した心象状態の可視化と進路指導への応用

Abstract

進路希望書を学校に提出したことがある人の中には、偏差値を見て大丈夫そうだから、自分に合っていそうだから、「なんとなく」良さそうだからという理由で志望校の名前を書いたという人もいるでしょう。今ひとつ現実感がないように思っていても、その「なんとなく」には、まだ自覚していないモチベーションが隠れていたかもしれません。私たちは、進路に関する心象(イメージ)の変化がモチベーションに影響すると考え、情報処理の手法を用いてそれを可視化できないだろうか、またそれを進路指導に活かせないだろうかと考えました。

そこで、理系分野への進学を例に検討してみました。理系分野の心象を「好奇心や興味」「知識や能力の獲得」「将来の成功への期待」「やってよかったという満足感」の4種に設定し、各心象について3項目の質問を設け、それぞれについて6段階で答えるアンケートを高校生を対象に行いました。120名から得た有効な回答(データ)をコンピュータで解析し、4種の心象がいろいろな強さで組み合わさった状態を16個の2次元の空間(正方形)で表し、各空間のどの領域がモチベーションの高い理系分野志望者の心象に該当するのかを可視化しました。これにより、アンケートに答えてもらうだけで、理系分野志望に影響する生徒の心象状態を視覚的に把握し、その心象状態に応じて、教師が効果的に進路指導を行える可能性が示されました。例えば、「好奇心や興味」を高めれば「なんとなく」から脱却し、理系分野への進学に対するより強いモチベーションにつながる可能性があるのであれば、好奇心や興味がわくような例を生徒に示す、といったやり方が考えられます。さらに、指導後にアンケートを行い、その結果を同様に処理して可視化することで、指導の効果が確認できる可能性も示されました。このように可視化することで、進路指導の先生だけでなく各教科の先生とも情報が共有しやすくなるため、さらに効果的な指導が期待できます。

この研究の背景には、大学に入学しても卒業しない、または卒業後の進路が決まらない学生が一定数いるという問題があり、目的なく進学を決めてしまうことがその原因の一つとされています。このような支援システムが進路指導の現場に導入されれば、ぼんやりした未来への地図がはっきり見えるようになり、進路選択の意思決定がより確かなものになることでしょう。

Publication

  • 大前佑斗ほか, キャリアに対する認識の分析による進学動機変容の推定, 知能情報ファジィ学会論文誌: 知能と情報, vol.27, no.5, pp.743-756, 2015.10 https://doi.org/10.3156/jsoft.27.743
  • 大前佑斗ほか, 進路指導教育支援を目的とした心象状態の可視化手法, ヒューマンインタフェース学会論文誌, vol.17. no.2, pp.127-138, 2015.02 [採択率: 50.0%]

Note

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文責: 大前佑斗

日本大学生産工学部マネジメント工学科 専任講師、人工知能リサーチセンター 研究員。ゼミ配属では、プログラミングや人工知能を、時間をかけ丁寧に学習したい方を募集しています。文系・理系、どちらでもokです。

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