はじめに

前回まで、人工知能の一つであるニューラルネットワークを用いて、お店が繁盛するのかしないのか、お店の綺麗さ、価格、味から予測する方法について学びました。今回は、人工知能を活用して人間の身体動作を分析する方法について俯瞰して見たいと思います。ここでは、慣性センサと呼ばれる物体の動きを測定するデバイスを用います。


慣性センサとは

慣性センサとは、3軸加速度、3軸角速度を時系列的に取得するデータ測定機器です。スマートフォンや、リストバンド型デバイスなどに含まれており、装着した人の身体動作を測定することができます。最近のスマホは、歩いた歩数、走った時間、階段を上った段数を自動的にカウントしてくれますが、それは、慣性センサのおかげとなります。

人間の身体動作の解析以外にも、地震の検出、自動車のふらつき検出・位置推定、飛行機の姿勢推定、機械の故障検出など、多様な場面で慣性センサが活躍しています。

スマホの慣性センサを起動させる方法:
知っている人も多いと思いますが、スマホにもだいたい慣性センサが組み込まれています。iOSのappや、google playなどで「加速度センサー」と検索し、ダウンロードしてアプリケーションを起動してください(研究や分析ではもうちょっとちゃんとしたセンサを使います)。

問題1(紙に書く):

  • あなたのスマホの画面を天井に向けて、机の上においてください。このとき、重力加速度はX, Y, Z軸どの方向に現れ、値はどのくらいとなりますか。(グループで一人だけやればいいです)

上の図は、ベントオーバーローイング(筋トレ)をしている人の足首の動きを、慣性センサで測定した図となります。X, Y, Z軸の動きが測定されていることがわかります。


慣性センサと人工知能

前述したように、人間の体に慣性センサをつけて運動を行うことで、X, Y, Z軸方向の動きを測定することができます。しかし、その信号を見ても「ああ、なんか信号が流れている」くらいしかわかりません。ですので、慣性センサにより得られた信号に対して、人工知能が何らかの解釈を与えて、ユーザにフィードバックする研究がたくさん行われています。人工知能に判断させる例としては、大きく分けて以下の二つがあります。

  • 量的判定: どの動作をどれくらい行ったのか
  • 質的判定: 行ったその動作は上手いのか、下手なのか


事例紹介

事例1(量的評価): 種目別の競泳時間の測定

  • Yuto Omae et al., “Swimming Style Classification Based on Ensemble Learning and Adaptive Feature Value by Using Inertial Measurement Unit”, Journal of Advanced Computational Intelligence and Intelligent Informatics, vol.21, no.4, pp.616-631, 2017.
  • 慣性センサから得られる信号で、泳ぎ方を自動判定する人工知能です。バタフライ、背泳ぎ、クロール、平泳ぎを何秒行ったのか、自動的に測定する人工知能です。競泳選手の支援のために開発されました。
事例2(量的評価): 陸上の練習時間の測定

  • 相原ほか, “競技スポーツの実践現場におけるICT活用”, 電子情報通信学会通信ソサイエティマガジン, vol.12, no.2, pp.98-104, 2018.
  • 慣性センサから得られる信号から、反復横跳びやダッシュの時間を自動的に測定する人工知能です。陸上選手の支援のために開発されました。
事例3(量的評価): 筋トレ動作回数の測定

  • Morris, D., et al, “RecoFit: using a wearable sensor to find, recognize, and count repetitive exercises”, Proceedings of the SIGCHI Conference on Human Factors in Computing Systems, pp. 3225-3234, 2014.
  • 慣性センサから得られる信号で、様々な筋トレ動作の回数を測定する人工知能です。https://www.youtube.com/watch?v=zpa4rVGlO68
事例4(量的評価): 日常動作と筋トレの測定

  • 森雅也, 大前佑斗, “畳込みニューラルネットワークと慣性センサによる運動支援システムの構築”, 情報処理学会第80回全国大会.
  • 日常動作(歩く、走る、座る)と筋トレ(スクワット、腕立て)を自動判定する人工知能です。腕をひねると日常動作と筋トレモードを切り替えることができます。また、リアルタイムに消費カロリーを算出し、ユーザにフィードバックする機能もあります。大前が指導した20歳の学生によって開発されました(ものづくりしたい人は暇な時来てくれば教えます)。
事例5(質的評価): 筋トレのクオリティの自動判定

  • 大前佑斗ほか, “アンサンブル学習の応用によるウェイトトレーニング質判定のための慣性センサ装着箇所の検討”, 第17回計測自動制御学会システムインテグレーション部門研究会, pp.1995-2000, 2016.
  • 何をどれくらいやったかという視点も重要ですが、その動作は良いのか悪いのか、という視点も重要です。この研究では、ベンチプレス、ラットプルダウンなどの筋トレのクオリティを自動判定する人工知能が開発されました。




今日の課題

  1. 慣性センサと人工知能を使って、人間の身体動作を評価するという視点で、社会に役立つシステムの例を自由に提案して見てください。回答においては、量的・質的判定どちらか何を判定する人工知能かなぜ社会に役に立つのか、この3点を書いてください。
  2. 事例紹介で述べたように、慣性センサと人工知能を活用した研究は、日常動作かスポーツ動作が非常に多い現状があります。経営分野、生産現場などで役立ちそうな、慣性センサと人工知能を活用したシステムを考えて見てください。回答においては、量的・質的判定どちらか何を判定する人工知能かどういうシーン(生産場面)での使用を想定しているかなぜ役に立つのか、上記4点を記載してください。