感染症病床の数と外出自粛の有無を考慮に入れたウィルス感染状況のシミュレーション

感染症病床の数と外出自粛の有無を考慮に入れたウィルス感染状況のシミュレーション

Abstract

2019年に発生したCOVID-19の感染拡大を防ぐため、日本をはじめとする世界中の国々で、さまざまなレベルの外出自粛措置がとられました。そうした対策を実施する際に根拠として用いられるものの一つが、シミュレーションによる感染拡大や収束の予測です。

日本では、社会を構成する私たち一人一人の行動の特徴(例:外出時間、目的地、滞在時間)とお互いの相互作用の可能性、さらにウィルスの感染力(例:潜伏期間、致死率)、環境要因(例:都市サイズ)などの複数の条件を組み合わせたシミュレーションが既に行われています。ところが、その条件には、感染症病床、つまりCOVID-19のような特定の感染症患者のみを入院させ、隔離・治療を行う病床の数が含まれていませんでした。

そこで私たちは、感染症病床の数と外出自粛の有無の両方を条件に加えてシミュレーションを行い、COVID-19感染状況への影響を検討しました。その結果、総人数900人(300世帯)の仮想社会において、外出自粛により死亡者数は約半分に減少し、満床のために入院を拒否される患者数もかなり減ることが推定されました。また、外出自粛が行われた場合に、感染症病床を50床、150床、250床と増やすにつれて致死率が大きく低下することや、致死率を最大限に低下させる感染症病床数も推定されました。さらに、このシミュレーションによる推定結果は、2020年に日本で実施された外出自粛後の調査データと同じ傾向を示すことも分かりました。

このように、外出自粛に伴う私たち一人一人の行動を踏まえた上で、感染症病床数を増減させると感染者数や死亡者数がどのように変化するのかを検証できることが分かりました。しかし、感染症病床を増やすためには医師・看護師などの人的資源や防護服・マスクなどの物的資源がより多く必要になるなど、他にも考慮しなければならない条件が存在します。私たちが用いたシミュレーションの手法は、複数の条件をさまざまに組み合わせて予測や分析を行うというものですので、今後さらに条件を追加し、実測に即した大規模な環境を想定した検証を行えば、感染症病床の確保に役立つ精度の高い結果を提供することができるでしょう。

Publication

  • 大前佑斗, 豊谷純, 原一之, 高橋弘毅, 感染症病床リソースと外出自粛を導入したマルチエージェント環境によるウィルス感染症の伝播予測手法, 日本知能情報ファジィ学会論文誌: 知能と情報, vol.32, no.6, pp.998-1007, 2020.12. doi: 10.3156/jsoft.32.6_998
  • 大前佑斗, 柿本陽平, 豊谷純, 原一之, 權寧博, 高橋弘毅, 一斉外出自粛の解除戦略がCOVID-19感染者数と外出者数に与える影響 ~マルチエージェントシミュレーションによる戦略評価~, 電子情報通信学会技術研究報告集(人工知能と知識処理研究会), vol.120, no.362, pp.1-6, 2021.
  • Yuto Omae, Yohei Kakimoto, Jun Toyotani, Kazuyuki Hara, Yasuhiro Gon, Hirotaka Takahashi, Impact of removal strategies of stay-at-home orders on the number of COVID-19 infectors and people leaving their homes, International Journal of Innovative Computing, Information and Control, vol.17, no.3, pp.1055-1065, Jun. 2021. DOI: 10.24507/ijicic.17.03.1055

Note

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文責: 大前佑斗

日本大学生産工学部マネジメント工学科 専任講師、人工知能リサーチセンター 研究員。ゼミ配属では、プログラミングや人工知能を、時間をかけ丁寧に学習したい方を募集しています。文系・理系、どちらでもokです。

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